経口糖尿病治療薬
経口血糖降下薬は、糖尿病、特に2型糖尿病の治療に用いられる薬で、食事や運動療法だけで血糖値がコントロールできない場合に使用されます。
これらの薬は、作用機序によって大きく以下の3つに分類されます。
- インスリン抵抗性改善系
- インスリン分泌促進系
- 糖吸収・排泄調節系
それぞれについて詳しく説明します。
1. インスリン抵抗性改善系
このタイプの薬は、体がインスリンを効率よく使えるようにすることで、血糖値を下げます。
インスリンの効果が弱くなっている「インスリン抵抗性」を改善することを目的としています。
ビグアナイド系
- 作用機序:肝臓での糖新生(糖を新たに作り出すこと)を抑制し、筋肉や脂肪細胞がインスリンをより効果的に使えるようにします。これにより血糖値が低下します。
- 特徴:体重が増えにくく、低血糖のリスクも低いです。2型糖尿病治療の第一選択薬とされています。
- 副作用:消化器症状(下痢、腹痛など)があり、まれに乳酸アシドーシスという重篤な副作用が報告されています。
チアゾリジン系
- 作用機序:インスリンの効果を高めることで、特に筋肉や脂肪細胞での糖の取り込みを促進します。
脂肪細胞の働きも改善し、全体的にインスリン抵抗性を改善します。 - 特徴:効果が穏やかに現れますが、時間がかかることがあります。
体重増加やむくみのリスクがあります。 - 副作用:体重増加、むくみ、まれに心不全のリスクがあるため、注意が必要です。
2. インスリン分泌促進系
このタイプの薬は、膵臓のβ細胞を刺激して、インスリンの分泌を増やすことで血糖値を下げます。
体がインスリンを十分に分泌できない場合に使用されます。
スルホニル尿素薬(SU薬)
- 作用機序:膵臓のβ細胞を直接刺激して、インスリン分泌を増やします。
- 特徴:効果が強力で、特に長年使用されている薬です。しかし、低血糖のリスクが高く、注意が必要です。
- 副作用:低血糖や体重増加が主な副作用です。
速効型インスリン分泌促進薬
- 作用機序:SU薬と似たメカニズムでインスリン分泌を促しますが、より速効性があります。
食事の直前に服用し、食後の血糖値上昇を抑えます。 - 特徴:作用時間が短く、食事に合わせたインスリン分泌を補うため、食後の高血糖を防ぎます。
- 副作用:低血糖のリスクがあり、特に食事を取らずに薬を服用すると危険です。
DPP-4阻害薬
- 作用機序:インクレチンというホルモンを分解する酵素(DPP-4)を抑制することで、インクレチンの量を増やし、膵臓からのインスリン分泌を促進します。
同時に、グルカゴン(血糖値を上げるホルモン)の分泌を抑制します。 - 特徴:血糖値が高いときにだけインスリン分泌を促すため、低血糖のリスクが少ないです。
また、体重にほとんど影響しません。 - 副作用:比較的少ないですが、まれに皮膚反応や消化器症状が報告されています。
3. 糖吸収・排泄調節系
このタイプの薬は、食事から摂取した糖の吸収を抑制したり、腎臓での糖の再吸収を抑えて尿中に排泄することで、血糖値を下げます。
α-グルコシダーゼ阻害薬
- 作用機序:小腸での炭水化物の分解を遅らせることで、糖の吸収をゆっくりにし、食後の血糖値上昇を抑制します。
- 特徴:食事の前に服用し、食後高血糖を防ぐのに効果的です。
血糖値が急激に上がることを防ぎます。 - 副作用:お腹の張りやガス、下痢などの消化器症状が主な副作用です。
SGLT2阻害薬
- 作用機序:腎臓での糖の再吸収を抑えて、余分な糖を尿中に排泄させます。
これにより、血糖値を下げます。 - 特徴:体重減少効果や血圧低下効果も期待され、心血管リスクの低減にも役立つ可能性があります。
- 副作用:尿路感染症や性器感染症のリスクがあるため、注意が必要です。
また、脱水症状にも注意する必要があります。
まとめ
経口血糖降下薬は、作用機序に応じて「インスリン抵抗性改善系」「インスリン分泌促進系」「糖吸収・排泄調節系」の3つに分類されます。
それぞれの薬は、患者様の年齢、インスリンの分泌が十分あるのか低下しているのか、併存疾患、既往歴、腎臓や肝臓の状態、生活習慣に応じて選ばれます。
どのお薬が合うのかは、患者様一人ひとりで異なってきます。
複数の薬を組み合わせることもあり、効果的に血糖値を管理することが目標です。